昨年、没後50年を迎えた英国の大政治家
ウィンストン・チャーチル。
第二次世界大戦下、ナチス・ドイツに席巻
されていたヨーロッパの地において、いか
に英国の独立を保ったのか──。
そこには20世紀の世界史にも大きな影響を
もたらした二つの決断がありました。
────────『今日の注目の人』──
◆ 世界に影響を与えた二つの決断 ◆
中西 輝政(京都大学名誉教授)
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自分が信念を持ったことには驚くほど集中
して取り組むチャーチルだが、とりわけ海
軍大臣の時代に下した決断は、イギリス
に多大な国益をもたらしたとともに、
20世紀の世界史にも大きな影響
を及ぼした。
一つは軍艦である。それまでの軍艦は石炭
で走っていたが、「これからは石油の時代
だ」と考えたチャーチルは、既に第一次
世界大戦の一年前に石油で動く軍艦
での艦隊編成に切り替えた。
石油に換えると、それまでの石炭の軍艦と
は比べものにならないほど速度が速く、
いったん燃料を積み込めば何十日も
航海していられるため補給基地
がいらない。
もう一つの決断は、暗号解読、すなわち
インテリジェンスに徹底的に力を
注いだことである。
第一次世界大戦におけるイギリス海軍の
暗号解読はアメリカの参戦に大きく
貢献したが、それから約30年。
第二次世界大戦でのイギリスの勝利は、まさ
しく磨き上げられたインテリジェンスの勝利
であり、それは専らチャーチルの「決断の
勝利」といっても過言ではない。
1940年にナチス・ドイツがイギリス本土へ
侵攻を始めた時、イギリスはその高度な暗
号解読技術を駆使して既にドイツ軍の
極秘通信を傍受していた。
「イギリス上陸作戦」のためにドイツ空軍が
空の戦い(「バトル・オブ・ブリテン」)に
着手した時には、イギリスの迎撃部隊はド
イツの爆撃機がいつ、どこから飛んでく
るか、手に取るように分かるように
なっていた。
それゆえ、圧倒的に優勢なドイツ軍の
空襲を見事に撃退し、国土を守り
抜くことができたのである。
いったいどこからこの着想を得たものか、
チャーチルの慧眼には今日でも
驚きを禁じ得ない。
ちなみに、イギリスから暗号解読のノウ
ハウを得たアメリカは、ミッドウェー
海戦で日本海軍の動向を事前
に察知し大打撃を与えた。
1914年のチャーチルの決断は日本の運命
にまで影響を及ぼしたわけである。
革新的なことを思い切って導入するチャー
チルのリーダーシップによって、イギリ
スは次々と戦局を打開していった。
その天才的な洞察と、一度決めたら断固
としてやり抜く実行力は、余人をもって
は替え難いものがあった。
※不屈の人・チャーチルの一生をその
たぐい稀なるリーダーシップの観点
から描いた記事の続きは本誌を
ご覧ください!
『致知』 2016年4月号
特集「夷険一節」P52
今回も最後までお読みくださり、ありがとう
ございました。 感謝!