世の中の流れとは真逆の発想で人気を
博す温泉宿が長野県にあります。
不足、不便、不揃いこの3つをセンスよく
磨き上げることで宿泊客の心を鷲づ
かみにする手法が斬新で面白い!
────────『今日の注目の人』──
◆ 不便さをセンスよく磨き上げる ◆
金井 辰巳(花仙庵 仙仁温泉 岩の湯社長)
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その一つとして館内の環境づくり、
演出には随分心を配っています。
当旅館ならではの洞窟風呂はその代表
ですが、他にも例えば、廊下の一部は
それまであった壁やガラス張りの
部分を取り外し、外の自然と
融合できる空間にしました。
暖房の効いた廊下の先にある自動ドア
が開くと、そこには屋根と廊下しか
ない豊かな雪景色が広がり、その
空間を抜けて次の自動ドアを
進むと、再び暖かい廊下が
待っているというイメージです。
紅葉のシーズンですと、
枯れ葉が舞い落ちます。
それを踏んで自然の感触を味わって
いただく、遠くの絶景ではなく
身近な環境です。
このような廊下を随所に作ったのは、
現代人が便利さや快適さを追求する
一方で、忘れてしまっているもの
があるように思ったからです。
私たちは不足、不便、不揃いという
不の部分にこそ、便利さに慣れた
現代人の心の奥底にある潜在
ニーズがあると考え、それ
らを最高に生かすことを
とても大事にしています。
つまり、ただ不をそのままにするの
ではなく、それらをセンスよく
磨き上げる。
──不便さを磨き上げる?
ええ。例えば、外の廊下には厚みのある
本物の原石を敷き詰め、その下には温泉
の管を引いて融雪し、お客様が滑ら
ないよう安全にしています。
外庭は動きを持たせるために山の沢水
を引いて水の音色を楽しんでいただ
けるようにしました。
ソフト面では、例えば冬の真っ白な雪
のシーズンでも、昔ながらのどてらを
アレンジしたオリジナルの防寒着を
準備して、いつでも暖かくお部屋
から外に出るのが楽しくなる
よう工夫させていただいています。
※かつては寂れた、静かな温泉宿がいかに
して稼働率100パーセントの人気旅館
に変貌を遂げたのか?
その軌跡は本誌でお楽しみください!
『致知』 2016年4月号
特集「夷険一節」P44
今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。 感謝!