包丁の研ぎ方一つで料理の味は変わるんだよ = 2-2 =  第 279 号

 中西は1970年に東京大学工学部を卒業、

日立に入社した。

 「入社した頃から社長候補」と言われ、

30代の初めにはスタンフォード大学院に留学。

大みか工場副工場長、日立ヨーロッパ社長、

 北米総代表、欧州総代表も務めるなど、約束された

エリートコースを歩んできた。

 中西は物腰は穏やかだが、クールで頭が切れる。

 そんな彼は5年前にはこの壇上に立つことは予想

していなかった。

 中西は、2006年に副社長に昇進するが、

日立GST再建に専念するため、同年

末には副社長を退任。

 傍目からは中西の北米行きは、社長レース

に破れた都落ちと捉えられた。

 だが、中西の経営の真骨頂はここから始まる。

 そして、3年間にわたる日立GSTの再建は、

その後、川村とともに進めていく日立「改造」

の重要な伏線となるのだ。

 川村にせよ、中西にせよ、他の日立再建チーム

を見るにつけ、感じることがある。

 一度一線を退いた、あるいは外れた人間が

何かの偶然で再度経営に携わることになっ

た時、そこにはある種の思い切りや

大胆さが発揮されるように思えてならない。

 言葉は悪いが、一度捨てた命、一度は死んだ身。

 悲壮感ややぶれかぶれというのとも違う、しがらみ

から解き放たれた「達観」が経営を動かしていく。

 そうでなければ、その後の日立の復活は説明の

つけようがない。

 北米サンノゼで、タフ・ネゴシエイターとして名を

馳せた中西だが、単身赴任のプライベート生活は

気ままに過ごした。

 中西は根っからの料理好きで知られる。

 多忙な生活の傍らで、食材を買い込み、毎晩一人でも

3品ほどの料理を作るのが常だった。

 日立GSTの会長の三好が、ゴルフ帰りにワインを

携えて中西の部屋に行くと、エプロンをして自作料理を

準備した中西が待っている。

「包丁の研ぎ方一つで料理の味は変わるんだよ」

 入社した頃から社長候補と言われ、エリート街道を

進み、自らもそれを認識しながら、時の運には恵まれ

なかった。

 それでも腐ることなく、海外での困難なミッション

に力を尽くし、プライベートの時間も疎かには

過ごさない。

 カルフォルニアでのエピソードは、豪腕とかタフと

呼ばれる中西のもう一つの横顔をよく表している。

 英国での鉄道ビジネスで苦戦を強いられた日立は、

セールスマネジャーの求人広告を出した。

 そこに現れたのは、元英国海軍の軍人で、国防企業

BAEシステムズやアルストムでセールスを担当した、

アリステア・ドーマーだ。

 「日本のHITACHIが、なんのツテもない

イギリスで鉄道車両を売ろうなんて、チャレンジングで

面白そうじゃないか」

 「日立の技術が優れていることは知っているが、

英国でビジネスをするには私のコネクションが必要だ」

と言って現れた。

 ドーマーは、現地を理解するメンバーで体制をつくり、

その結果、公式・非公式の様々な場において、

複雑に入り組むステークホルダーから

情報を適切に吸い上げることが可能になった。

 ドーマーは、英国鉄道戦略庁の担当官だった

アンディー・バールをスカウトした。

 最初に煮え湯を飲まされた担当官庁から、直接

人材を引き抜くドーマーの人脈と手腕を見て、

日本人幹部は、「やはりボタンの押し方が

違うな」と感心せざるを得なかった。

 2014年6月、川村隆は株式総会において

取締役を退任した。

 何人かの取締役が簡単な退任の挨拶をするのと

同じように、川村も通りいっぺんの挨拶を

残し、取締役会を後にした。

 5年にわたる日立再建をなし遂げた主人公は、最後に

気の利いた言葉でも発して取締役会を去るのかと

思いきや、その去り際は拍子抜けするぐらい

淡白なものだった。

 川村が日立工場の設計課長だった頃、日立工場長の

綿森力は、こう言ったという。

 「この工場が沈むときがもし来たら、

キミたちは先に船を下りろ。

それを全部見届けたら、俺はこの窓を蹴破って

飛び降りる。それがザ・ラストマンだ」

 「2009年4月、今にも沈もうとしている日立の

舵を握ったのは、綿森や全日空の山内の言動

からザ・ラストマンの精神を学んだから

なのかもしれない」川村は大略、こう話してくれた。

  小板橋太郎

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 今回も最後までお読みくださり、ありがとう

              ございました。 感謝!

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