人は様々な願いに生きていますが、北朝鮮に
拉致されためぐみさんの帰国を願う横田
夫妻もまた、長年にわたって願い
に生きてこられました。
突然、娘が他国にさらわれて38年──。
「一日千秋」、という言葉がズリシ
と胸に響きます。
────────『今日の注目の人』──
◆ 絶対に諦めない心 ◆
横田滋(拉致被害者家族)
×
横田早紀江(拉致被害者家族)
×
佐藤佐知典(中学校教諭)
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【早紀江】
私は政治家の皆様によく言うんですね。
「皆様のお嬢様がこうなってしまったら、
どうなさいますか。
考えていただけますか」と。
黙って聞いていらっしゃいますけど、
本当にそうなんですよ。
佐藤先生が「いのちの授業」をされている
ように、命は本当に掛け替えのないもので、
その命が不当にどこかに連れて行かれて
いるとしたら、何はさておき引っ張
って連れて帰らなきゃいけないんです。
それが政府の役割ではないですか。
私たちもいますぐにでも船で乗り込んで
いきたい気持ちです。
めぐみだけでなく、被害に遭われた方がもっと
たくさんいらっしゃるわけですから。
【佐藤】
それだけの強い覚悟をお持ちなんですね。
【早紀江】
私は偽の遺骨が帰ってきてから特に
そう思うようになりました。
本当に死んでいるなら、わざわざ別人の骨を
送る必要なんかないわけでしょう。
だから、生きているのは間違いないんです。
【滋】
めぐみの遺骨といわれていたものをDNA
鑑定すると、よその男性の骨でした。
日本の技術ではいつ頃亡くなって、どう
やって焼却されたかということまで
すべて分かるんですね。
それからというもの北朝鮮は拉致の真相
究明に協力することがなくなりました。
「拉致問題は終わった」という話に
なってしまったんです。
【早紀江】
ひょっとしたらめぐみは酷い目に
遭っているかも分からない。
だけど生きていると私たちは
確信しています。
生きている間に日本の土を
踏ませてあげたい。
この国が自由なんだと思わせてあげたい。
それだけなんですよ、私が願っているのは。
【佐藤】
そういうご夫妻の思いを体して、私も生徒
たちには「何事も絶対に諦めるな。
たとえ結果的には負けても、それでも
なお諦めるな」と言っています。
私は生徒たちから「生きるって何?」
とよく質問を受けるんです。
簡単で難しい質問ですが、私がご夫妻から
教えられたのは、たとえ絶望的と思われる
状況でも、そこから一筋の希望を
見出すことでした。
尽きるところ、それが生きるという
ことだと思います。
そして、そういう生き方をしていれば、
平凡に生きられることがどれだけあり
がたいか、そのことに感謝できる
ようになると思うんです。
月刊誌『致知』 2016年3月号
特集「願いに生きる」より
今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。 感謝!